※このインタビューは2008年9月におこなわれました。 肩書等、当時のままになっています
東京電力株式会社 取締役社長 清水正孝氏
内永 過去を振り返っても、ほとんどの企業が好転したきっかけは、むしろ逆境のときです。順調なときには、なかなか新しい展開や、イノベーションができません。私がいたIBMも、キャッシュフローも厳しくなり、最後の土壇場で新しい経営者が外から来て、ガラッと変わりました。順調なときは、今までのやり方ではだめなんだという決断までなかなかいきません。たしかに過去は成功したかもしれないし、今の状態で頑張ればそこそこいけるかもしれないけれど、先を見たとき、どう考えてもこれでは無理だよねというギリギリのターニングポイントに、社員がどれだけ気がつくかということです。
清水 いやいや、まさにそのとおりです。これまでは従来のコストをどうやって削減するかとか、あたりまえのことをやってきていますが、今の局面はもう後がないですから、今まで踏み込めなかったところまで踏み込んでいく覚悟でやらなければならないと思っています。
内永 順調ですとそこまでできません。成功体験をお持ちですから、失敗することに対する不安、心配もあります。小さな企業でしたら、いろんなことにチャレンジできるのですが、御社のような、日本の産業のインフラ、土台を支えていらっしゃったところがチャレンジをするというのはなかなか難しい。内的要因、外的要因によほど大きなものがないかぎりは変えられません。
そこへ持って来て地震があり、御社の発電電力量の4割程度を占めていた原子力の位置づけとか環境問題、石油の高騰、というように今までプラス、プラスで来ていたパラメーターが、マイナス、マイナスになってきました。こうなってくると、やはりこれまでと発想の転換が求められるし、逆に言うと、こうした中での社員への活気づくりが必要になると思います。
清水 おっしゃる通りですね。私も40年の会社生活で培った自分の思いに忠実にやっていこうと思っています。私の思いのなかにもいろんな視点、見方があるのですが、そのなかのひとつに"実践を通じてやっていこう"ということがあります。新しい技術とか知識というのは次々と出てきますが、技術は実践を通じて技になりますし、知識というのも実践を通じて知恵になっていくだろうと思うのです。逆に知識が知識であり、技術が技術にとどまっている限りでは評論家と同じです。少なくとも実社会においては、そういった実践を通じてやるということの重要さを改めて認識してもらいたいということを、社員へは繰り返し言っています。