このインタビューは2021年4月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです
東急株式会社 取締役社長 髙橋 和夫 氏
内永 このたびはJ -Winダイバーシティ・アワード、ベーシックアチーブメント大賞受賞おめでとうございます。御社が大賞をとられた大きな理由は、リーダーシップです。ですから本日は、髙橋社長にお話をお伺いするのを楽しみにしていました。中期経営計画の重点施策にダイバーシティ推進を掲げていらっしゃいますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
髙橋 10年ほど前、人事・労政室(当時)の室長に就任した際、どうやってこの会社を元気にしようかと考えたときに、女性社員が少ないことに気づきました。当時、鉄道事業の現場は女性社員がかなり少なかったので、これはおかしいと思ったのです。
内永 ほとんどの人は、不思議に思わないんですよ。
髙橋 私の原体験と言ったら大げさですが、東急バスに出向していた課長時代に女性活躍につながるプロジェクトを行いました。当時、男性しかいなかったバスの運転士は「無口で怖い」と不評だったんですね。その現状を変えたいと思って、講話をしたり、サービス向上を働きかけたりしたのですが、全く変わりません。それで、いっそのこと運転士を女性にしようと思ったのです。 でもいきなり総入れ替えすることはできませんから、新しいバスの子会社を設立し、運転士を全員女性にして、それ以降、順次、親会社の仕事も吸収していきました。すると親会社の運転士たちも危機感を持ったのか、マイクで「いらっしゃいませ」とアナウンスするようになり、結果として東急バス全体のサービスが向上しました。
内永 日本中の経営トップの方がそう思ってくださるといいですね。激変する世の中では、過去の成功体験に捉われていると、時代の流れに取り残されてしまいます。でも、どんなに優秀でも自分の成功体験を捨てられる人はなかなかいません。その一方で過去の成功体験を共有していない人は、従来のメンバーが当たり前だと思っていることに「なぜそうなんですか」と疑問を持ちます。新たな発想が投入され、それが多様性を進める原動力になります。それが女性活用なんです。
髙橋 当社は、若い世代は女性社員の割合が増えていますが、ミドル層以上の女性社員が少ないので苦労しています。中途採用を考えたこともあるのですが、現場を知らない人がいきなり管理職になるのは難しいですね。
内永 マネジメント層の女性を中途採用することも大切ですが、企業の中で女性管理職を一から育てていくことのほうが、近道ではないでしょうか。
髙橋 和夫 氏 (たかはし かずお)
東急株式会社 取締役社長
1980年一橋大学法学部卒業後、東京急行電鉄(現・東急)に入社。
交通事業の経験が豊富で、出向した東急バスには約19年間勤務。
復職後は、主に経営企画部門を担当し、仙台空港の運営権獲得にも
関わった。常務、専務などを経て、2018年4月より現職。
内永ゆか子(うちなが ゆかこ)
NPO法人 J-Win 理事長
1971年東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。1995年取締役
就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。2004年4月取締役専務執行役員。2007年4月NPO法人J-Winを設立し、理事長に就任。2008年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、2013年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。