この対談は2017年6月16日「J-Win関西支部キックオフ」の際におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。
日本たばこ産業株式会社 代表取締役社長 小泉 光臣 氏
内永 日本たばこ産業様は「2017J-Winダイバーシティ・アワード」でベーシックアチーブメント準大賞を受賞されました。その審査の過程で小泉社長にお話を伺い、私はとても感激しました。ダイバーシティの本質をご理解され、さらにトップとして見事に実行されていたからです。
小泉 今から5年前の社長就任の際、「社長になるために社長になる」のではなく、「やりたいこと、やらなければならないことがあるから社長になる」のだと思いました。そこで就任にあたり「社長になってやるべきことリスト」を作成しました。今でも机の中に大切にしまい、半年に一度は進捗をチェックしています。そのリストの1行目に書いてある言葉が「Innovation←Diversity(とりわけ女性活躍)」です。ダイバーシティ推進は当社の成長に不可欠であるとともに、社長として私が最優先で果たすべき使命であると考えています。
内永 女性活躍を、経営者の使命としてとらえていたということですね。本当に力強い覚悟と実行力ですが、小泉社長がそもそもダイバーシティの意義にふれたきっかけは何だったのでしょうか?
小泉 当社もかつては男性中心の同じ性質や考えを持った社員が集まったホモジニアスな組織で、あうんの呼吸が通じる、本質としてはいわば内向きの企業風土でした。しかし、1999年と2007年に相次いでM&Aを実行し、一気にグローバル化を進めたことで変わっていかねばならないという機運が出始めました。私自身も世界中を飛び回って仕事をするようになり、意識が変わりました。
スイス・ジュネーブにある子会社JT International本社は、当時1,000名ほどの社員が所属し、その国籍は約80カ国にもわたっていました。ですから、そこでの会議一つとっても私には大変新鮮で、ワクワクするものでした。一つのテーマに対して、今まで経験したことのない、様々なアプローチ方法やアイディアが飛び交うのですから。多様な視点が議論を活性化し、最後には最適解を導き出す。「素晴らしい、これが多様性だ!」と実感しました。
内永 多様性の意義は、まさにそこですね。今までの枠組みや、既成の価値観にとらわれない、新たで多様な視点が物事をとらえなおし、新しいアイディアを生んでいく。
小泉 今はお客様のニーズが多様かつ高度になり、新たな付加価値を加えた商品・サービスが求められていますから、以前にも増して、ダイバーシティの重要性が高まっています。
内永 そのとおりですね。高度成長期は、変化のスピードも緩やかでしたが、現在のように急速に変化する環境に対応していくためには、今までと同じやり方では通用しません。
小泉 従来のように同じ性質や考えを持った社員が集まった、ホモジニアスな組織と比べれば、様々な個性を持った社員が入り交じる組織の方がマネジメントコストやコミュニケーションコストはかかりますが、それらを凌駕するアウトプットが生まれます。現在の多様化した顧客ニーズに素早く対応していくためにはイノベーティブな発想が不可欠です。だからこそ、女性活躍をはじめとした多様化推進を経営課題ととらえて推し進めているのです。
内永 女性が入るからイノベーションが起こるのではなく、今までのやり方に疑問を呈し、新しい視点が入ることで議論が活性化する結果として生まれるイノベーションが、事業にとって大きな力になるということですね。
小泉 光臣 氏(こいずみ みつおみ)
日本たばこ産業株式会社 代表取締役社長
1957年神奈川県生まれ。1981年東京大学経済学部卒業、日本専売公社に入社。2001年日本たばこ産業株式会社経営企画部長、2003年より執行役員・人事労働グループリーダー、2004年 執行役員・たばこ事業本部事業企画室長。2006年 常務執行役員・たばこ事業本部事業企画室長、2007年 取締役 常務執行役員・たばこ事業本部 営業統括部長、同事業本部マーケティング&セールス責任者。2009年 代表取締役副社長・たばこ事業本部長。2012年6月 代表取締役社長に就任、現在に至る。
内永ゆか子(うちなが ゆかこ)
NPO法人J-Win 理事長
1946年香川県生まれ。東京大学卒業後、1971年日本IBM入社。1995年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。2004年4月取締役専務執行役員。2007年4月NPO法人J-Winを立ち上げ、理事長に。2008年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、2013年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。